マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の6人目のゲストは、株式会社SCRAP代表取締役の加藤隆生さん。「リアル脱出ゲーム」という大きな器の中で、「新世紀エヴァンゲリオン」「ワンピース」「進撃の巨人」「名探偵コナン」など出版社を問わずさまざまなマンガ・アニメ作品と次々とコラボした公演を制作し、その動員数は年々増え続けています。それぞれの作品の魅力を最大限に引き出し、リアルの場での新感覚の体験に再構築していくプロに、マンガ制作サイドや作品そのものとの距離感、そしてこれから先のリアルの場での作品体験の可能性を伺ってきました。
【以下からの続きです】
1/6「『リアル脱出ゲーム』はほとんどの作品に対応できるハードなんです。」
マンガの世界観から発想する謎解きのかたち
山内:公演作りのことを考えると、会場も重要ですよね。コラボするアニメやマンガが先に決まっている場合と、場所が先に決まっている場合。2種類のケースがあると思うんですが、どちらが先かで企画に違いは生まれてきますか。
加藤:現実では「場所ありき」というケースは少ないです。作品ありきで依頼が来たときに場所を考えますね。「進撃の巨人」は“壁”の存在が印象的なマンガですよね。だから壁に囲まれたスタジアムを貸し切って「ここが城塞都市です」という設定にすると面白いんじゃないかと思って、全国のスタジアムを押さえて「ある城塞都市からの脱出」という企画にしました。「DEATH NOTE」(集英社)とコラボ(「新世界の神からの脱出」)したときは、アクションではなく考えることが魅力のマンガなので、少人数で思考に集中できるような場所と企画を考えました。マンガの世界観から発想して決めるので場所に縛られることはないですね。
山内:「進撃の巨人」の公演では、壁に囲まれた空間から巨人の顔が覗いていて。僕はその光景が見れただけでも充分満足でした(笑)。
編集部から企画に制限を受けることはありませんか。
加藤:そういうケースもほとんどないですね。編集部とは僕らが設計した企画が作品の世界観と合っているかどうか、それを確認してもらうという関わり方です。そこで例えば「コナン君はこんなセリフは言いません」と言われても、それはより世界観を作品に近づける意見なので僕らの方はなんのストレスもないですよね。むしろ「こちらの読み方が甘くてすみません。指摘してくれてありがとう」というか(笑)。逆に向こうから謎解きの方法に対して何か意見されることはないですね。そこはお互いプロとして、マンガの世界観を守る人と、謎を使ったエンターテイメントを作る人に徹する。実は職域が被る部分がほとんどないんです。
「幸せな出会い」が企画を作る
山内:以前の脱出ゲームではアナログ中心で、フィールドワークのようなイメージだったんですが、最近ではテレビやスマートフォンなどのデバイスも謎解きに関わってくるようになって可能性が広がった気がします。そこで例えば、マンガの制作自体にリアル脱出ゲームがからんでくるような演出があったら面白いんじゃないかと思いました。第一章がマンガ。第二章は電子書籍とリアル脱出ゲームを組み合わせて体験する作品、とか。
加藤:そういう可能性もあるかもしれないですね。僕が今の仕事で実感しているのは、世の中は出会いに左右されている、ということなんです。ある企画は幸せな出会いがあったおかげでものすごく伸びたし、もう少し幸せな出会いがあればもっとうまくいったのに、という例もたくさん経験しました。だから僕らに対して熱量のあるマンガ家さんとか編集者、プランナーの方との“幸せな出会い”があればそういうコンテンツも生まれるかもしれないですね。僕たちは「今の自分たちの力でできる、なるべく高い塔を作ろう」と思っているんです。高い塔であればあるほど、遠くからでも見えるじゃないですか。そうすれば今まで気づいてもらえなかったところ――例えば映画関係者から声がかかる。そうなったときに彼らとどう組めるかというプランを練るんです。そういう意味ではマンガとのコラボも興味があるし面白いとは思うけれども、その方向だけに積極的に向かっているわけでもないですね。
山内:自分が面白いと思って今できることをどんどんやっていると、自然といろんな方から声がかかりますよね。僕もマンガナイトの活動で実験的な企画を試し、それを少しわかりやすく引き直して、現実的な企画にして世の中の一般に出すことをイメージして仕事を進めています。
加藤:僕らの場合はできることも明確なんですよね。空間作りや謎解き、人を集めること。実際に回数を重ねていく中で、結果も出ていますからね。「一つのコンテンツと組めば最低でも5万人は集められますよ」という強みを持っている。それをさらにコラボレーションによって何倍にできるか、という話ですね。
[3/6「新しく作るより、既にあるものを書き換える。」 へ続きます](2015年1月15日更新)
構成:松井祐輔
(2014年12月2日、株式会社SCRAPにて)
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